恒例のカリフォルニア・インスティテュート主催の試飲会が開催されました。国内最大のカリフォルニアワインの試飲会で、ワイナリー関係者も来日しています。
今回はワインジャーナリストのジョン・ボネ氏が来日しました。カリフォルニア州北部最大の発行部数を持つ日刊紙で、ワインラバーにも多大な影響を与えているサンフランシスコ・クロニクル紙。ジョン・ボネ氏はこのサンフランシスコ・クロニクル紙の元ワイン担当編集長で、あのロバート・パーカーとは異なる(正反対の?)視点からバランスのとれたカリフォルニアワインの生産者を数多く紹介してきました。あの IPOB ブームの仕掛け人とも言われています。ジョン・ボネ氏のセミナーに参加してきました。
「カリフォルニアの新潮流」今カリフォルニアワインに新たな流れ、動きが起きています。この数十年、カリフォルニアワインに何が起こり、何が変わり、そして今後どう変化していくのか、ジョン・ボネ氏からお話がありました。「新しいカリフォルニアワインは、あなたが10年前に知っていたカリフォルニアワインとは異なる」1990年代は成長の10年。大規模なワイン生産会社から小規模な精鋭ワイナリーへと変わりました。大量生産から少量生産へ。1997年は90年代で最も名高いヴィンテージ。評論家は熟れた果実味の、酸の低いワインに最高ポイントを与えました。そしてカルトワインの登場(主にナパ・ヴァレー)。2000年以降カリフォルニアは変貌を遂げ、ワインのスタイルが定義されました。ビッグ・フレーバーの時代の到来です。熟れた果実味の、当世風でオーキーなワイン。特にカベルネが評論家から高い評価を得ました。2006年はまさにビッグ・フレーバーのピーク。しかし真逆のスタイル(クラシカルなスタイル)の生産者も存在しています。そして、新世代の出現。新世代の若いワインメーカー達はカリフォルニアワインの現状に不満を抱くようになりました。彼らは、評論家の評価よりも、新しい異なるスタイルを追求するようになりました。フレッシュ感、繊細さ、そしてバランス。2010年以降はニュー・カリフォルニアの隆盛が起こりました。新しいワインメーカー達は90年代のインターナショナルスタイルのワインを論駁しました。新世代のワインは旧世界のモノマネではない。カリフォルニアワインはたしかに熟した果実味と溢れる太陽。しかし偉大なワインはどうあるべきか、という伝統的な概念に根差している。すなわち、香味はデリケートで、長期熟成により品質が向上し、テロワールを含有するワインであると。この土地から造られる最上のワインとはどのようなものなのか?禁酒法廃止後はシャルドネとカベルネの世界(それでもまだ40年の歴史)。1880年代には多様な葡萄品種が栽培されていました。多様性の拡大へ。新世代のワインメーカー達は、かつてカリフォルニアに存在していた世界中のローカルな葡萄品種、トゥルーソー、グリュナー・フェルトリーナー、ヴェルメンティーノ、アルバリーニョなどを探索しています。カリフォルニアに最も適した葡萄品種はなにか?を自問自答しています。(以上は、ジョン・ボネ氏が刊行した「THE NEW CALIFORNIA WINE」にも記載されています。)
テイスティングはこちらです・・・(金額は輸入元税抜き上代価格です・・・)
Tatomer Meeresboden Gruner Veltliner Santa Barbara County 2015
★タトマー ミーレスボーデン グリュナー・フェルトリーナー サンタ・バーバラ・カウンティ 2015 ¥4,500
Ryme “Hers” Vermentino Carneros 2015
★ライム ”ハーズ” ヴェルメンティーノ カーネロス 2015 日本未輸入品
Sandhi Chardonnay Santa Rita Hills 2013
★サンディ シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ 2013 ¥6,500
Littorai Savoy Vineyard Pinot Noir Anderson Valley 2013
★リトライ サヴォイ・ヴィンヤード ピノ・ノワール アンダーソン・ヴァレー 2013 ¥12,000
Wind Gap Nellessen Vineyard Syrah Sonoma Coast 2013
★ウィンド・ギャップ ネレセン・ヴィンヤード シラー ソノマ・コースト 2013 ¥6,500
Matthiasson Cabernet Sauvignon Napa Valley 2012
★マサイアソン カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー 2012 ¥8,800
「タトマー」のグラハム・タトマーはカリフォルニア生まれ。やや辛口ではない超辛口のグリュナー・フェルトリーナーを造るためオーストリアで修行。オーストリアでも指折りのドライ・リースリングの造り手であるエメリック・クノールの下でワイン造りを学びました。グリュナー・フェルトリーナーはカリフォルニアにとっては新しい品種です。現在60ヘクタールのみ。オーストリアは実際には穏やかな大陸性気候であるため、この品種はカリフォルニアに適応します。華やかな芳香。カリフォルニアらしい濃縮した果実味を持ちながらもドライな味わい。そしてきりっとした酸。ライアン&メーガン・グラブ夫妻が造る「ライム」のヴェルメンティーノ。夫はオレンジスタイルの”HIS”を造り、妻はフレッシュスタイルの”HERS”を造ります。80年代にブームとなった Cal-Ital カリタル(イタリア品種のカリフォルニアワイン)ですが、なかなか市場に受け入れられませんでした。ヴェルメンティーノは比較的暑い場所でも酸が保たれる品種。カリフォルニアの海岸沿いや山地に適応します。”HERS”は葡萄の故郷リグーリア州のスタイル。アロマティックで心地良い酸を持ちます。トップソムリエで IPOB の発起人の1人、ラジャ・パーが造る「サンディ」のシャルドネ。1960年代に60haにすぎなかったシャルドネの栽培面積は現在4万haに及んでいます。シャルドネが主要品種になったのは80年代(第1の波)。90年代にかけて、いわゆるバタリーで濃厚で酸の低いシャルドネのスタイルが定着(第2の波)。しかしそれを好まない消費者も多かった。「シャルドネ以外ならなんでも(ABC: Anything but Chardonnay)」の声も。そして新しいスタイルのシャルドネの登場(第3の波)。しばしば樽発酵は行われるがオークの香美はほとんど感じられない。ブルゴーニュの技術だが、ブルゴーニュを造らない、模倣ではない。それは低収量、高品質のクローン、興味深い土壌から。サンディのシャルドネはサンタ・リタ・ヒルズの「冷蔵庫のような気候の場所」から(長所でもあり短所でもある)。ラジャはボーヌの醸造技術を注意深く研究しました。5,000リットルのオーク樽でアルコール発酵を行い、旧樽で熟成。樽香を抑えた味わい。冷涼感を感じる味わい。十分なミネラル感。アメリカ人として初めてブルゴーニュ初のエノロジストを務めたテッド・レモンが造る「リトライ」のピノ・ノワール。1980年代までカリフォルニアではピノ・ノワールは珍しい品種で、ワインは珍品と言えるものでした。シャローン、カレラ、ウイリアムズ・セリエムなどの一握りの先駆者、貢献者。1990年代に入り急拡大。新しい畑の開墾、ディジョン・クローン、最適な醸造技術による、成熟度を高めた濃厚なピノ・ノワールの登場。そしてスタイル論争が起こります。ブルゴーニュ風のピノ・ノワールか?熟れたカベルネ風のピノ・ノワールか?スタイル論争は現在も続いていますが、デリケートなスタイルが勝利しつつあります。テッド・レモンはアメリカに戻り、ブルゴーニュ同様にテロワールに根差したワイン醸造を試みました。まずはどこに偉大な土地があるか?見出したのはノースコーストの冷涼な海岸線(リトライ)でした。サヴォイは昔風のピノ・ノワールの最後の牙城と言われるピノ・ノワール。赤系の果実味。バランスや調和を主張するエレガントな味わい。パックス・マーリが造る「ウィンド・ギャップ」のシラー。ローヌ原産のシラーは、同じ地中海性気候のカリフォルニアにほぼ完璧に適合する葡萄品種。他のローヌ系品種のグルナッシュ、ムールヴェ―ドルもカリフォルニアに適した品種ですが、ブルゴーニュに近い北ローヌ(シラー)と温暖な南ローヌ(グルナッシュ)を同列に考えてはいけないとのこと。シラーは海岸沿い、またはピノ・ノワールに隣接する場所に適合する。ウィンド・ギャップは2000年がファースト・ヴィンテージ。北ローヌの醸造方法を行う。ネレセンはソノマ・コーストのフォッグ・ベルト(霧線)にある畑。フレッシュな果実味を持つ味わい。最後にスティーブ・マサイアソンが造る「マサイアソン」のカベルネ・ソーヴィニヨンです。カリフォルニアを、そしてナパ・ヴァレーを代表する品種カベルネ・ソーヴィニヨン。1976年パリ・テイスティングにて伝統国のワインに肩を並べる名声を得ました。当時は、果実は熟れているが、ハーブやミネラルといった、カベルネ・ソーヴィニヨンの品種特性に由来する味わい深さがありました。しかし、その後カルトワイン及びビッグ・フレーバーの中心的存在となりました。カベルネ・ソーヴィニヨンは大きな成功を得たがために、変革には大きな抵抗がある。スティーブ・マサイアソンはナパ・ヴァレーを代表する葡萄栽培技師。1990年代への敬意として、カリフォルニアらしい成熟度を保ちながら、ボルドー風の深い味わいと果実味のスタイルを求めます。このカベルネは80年代のロバート・モンダビのリザーブ・カベルネをイメージしているとか。フレンチオーク(新樽20%)にて20ヶ月熟成。アルコール度13,2%。まさにクラシカルなカベルネ・ソーヴィニヨンを思わせる味わいです。
「カリフォルニアは新世界のワイン産地であるが、伝統や歴史、土地の重要性に新たな敬意を払う。旧世界の技術に基づきながら、カリフォルニアの味がするワイン。主要な葡萄品種に敬意を払う一方、試行錯誤を恐れず、カリフォルニアにとっての最良の品種を探し続ける。(ジョン・ボネ)」
「現在のカリフォルニアは、永遠に色あせることのないワイン文化の美徳を自らに取り入れる。(ジョン・ボネ)」
残念ながら今回はサインのおねだりはなしです・・・醸造家ではなく評論家ですから(笑)・・・