ナパ・ヴァレー屈指のヴィンヤード・コンサルタントであるスティーブ・マサイアソン氏が来日しました。7年振りの来日です。輸入元主催のセミナーに参加しました。
スティーブ・マサイアソン氏はナパ・ヴァレー屈指のヴィンヤード・コンサルタントです。30年に亘り Regenerative Agriculture 環境再生型農業を実施しています。クライアントリストにはアローホ、シャペレ、スポッツウッドなどのトップ・ワイナリーの名も連ねます。優れたバランスを持つワインを探究する団体 IPOB のメンバーでした。2014年にサンフランシスコ・クロニクル紙の Winemaker of The Year に選ばれています。
スティーブ・マサイアソン氏から Regenerative Agriculture 環境再生型農業についてお話がありました。葡萄栽培はいわゆる殺虫剤や除草剤不使用のオーガニック栽培で、スティーブ・マサイアソンが管理そして栽培する畑はほぼ全て CCOF (California Certified Organic Farming) の認証を受けています。保水効果があり、かつ土壌浸食を防ぎ、土壌中に有機物を加えるカバークロップは15種類ほどをセレクトしています。葡萄樹の樹勢を安定させるため、葡萄樹とカバークロップの共存を図ります。地中のミネラル分を葡萄樹の根が吸収できる水溶性に変える微生物の多様性は節水につながります。微生物が1%増えると、1エーカーで11万リットルの節水につながるそうです。樹勢は強すぎても弱すぎてもダメとのことで、樹勢が高い区画には強いカバークロップを植え、低い区画には控えめにカバークロップを植えます。そうすることで糖度と酸のバランスの取れた葡萄が育ちます。それはバランスの取れた優れたワインに繋がります。畑の位置を考慮し、畝の方角を定めて、葡萄樹の枝を支える耐熱クロスアームも数種の形状のものを備え、朝日が当たるように、強い西日が当たらないように、葉の位置を設定します。台木は根を深く下ろすものを選択。益虫を増やすために住み家となる低木を植えます。低木は1年中活動することが出来る草や植物も含めてのものです。害虫から葡萄を守るブルーバードやスワロー、そして(小さな)フクロウなどの巣箱を設置します。自家製の堆肥(葡萄の搾りかすや牛糞)。温暖化ガス(カーボンフットプリント)の削除も。畑だけを見るのではなく、畑を取り囲む環境を整えることが必要であると。特にこの10年は山火事、猛暑、干ばつの被害が多かったため、改めて環境を整備することが必要であると。ビオデナミ栽培は土壌だけの改良保持のイメージが強いですが、環境再生型農業は土壌だけでなく畑の周りの敷地を含む、もう少し大きなスケールの再生そして保持を意味します。月の満ち欠けに合わせた栽培や醸造はしませんと(苦笑)。スティーブ・マサイアソン氏が行うのは化学的根拠に基づいて行われる最新の農業です。
スティーブ・マサイアソン氏は醸造家というよりまさに栽培家という感じの方ですが、自身の醸造では、強い抽出をしない、アルコール度数の低い、しっかりとした酸を持つ、かつ旨味のある綺麗な果実味を持つワインを造り出しています。個人的にはイタリアワインが好きとのことで、イタリア原産の希少品種であるリボッラ・ジャッラやスキオッぺッティーノなどのワインも造り出しています。ナパ・ヴァレー南部の冷涼地オーク・ノールの自社畑を中心にワインを作り出しています。まさに「ワインは畑で作られる」を実践するスティーブ・マサイアソン氏です。
テイスティングはこちらです。(価格は輸入元上代税抜き価格です。)
- Matthiasson Wine -
Chardonnay Linda Vista Vineyard Napa Valley 2021
★シャルドネ リンダ・ヴィスタ・ヴィンヤード ナパ・ヴァレー 2021 ¥7,000
White Wine Napa Valley 2021
★ホワイトワイン ナパ・ヴァレー 2021 ¥7,700
Rose California 2022
★ロゼ カリフォルニア 2022 ¥4,300
Ribolla Gialla Matthiasson Vineyard Napa Valley 2020
★リボッラ・ジャッラ マサイアソン・ヴィンヤード ナパ・ヴァレー 2020 ¥7,000
Schioppettino Napa Valley 2020
★スキオッぺッティーノ ナパ・ヴァレー 2020 ¥10,000
Cabernet Sauvignon Napa Valley 2020
★カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー 2020 ¥16,000
Cabernet Sauvignon Phoenix Vineyard Napa Valley 2020
★カベルネソーヴィニヨン フェニックス・ヴィンヤード ナパ・ヴァレー 2020 ¥26,000
Sweet Vermouth No.6
★スイート ヴェルモット No.6 (375ml) ¥7,500
基本マサイアソンのワインは、土着酵母で発酵、極々少量の CO2 以外の添加はなし、旧樽での熟成、一部のワインだけ清澄あり、です。先ずはマサイアソンの白の代名詞とも言える、リンダ・ヴィスタ・ヴィンヤード・シャルドネです。この畑のシャルドネは1989年にあのベリンジャー・ヴィンヤーズが入植したもので、スティーブ・マサイアソンは2011年から借用しオーガニック栽培に切り替え栽培を続けていました。冷涼地のため、3週間かけて収穫します。2021年リンダ・ヴィスタ・ヴィンヤード・シャルドネは、全房プレスで、発酵と熟成はフレンチオークの旧樽で行います。2/5 をマロラクティック発酵。バトナージュ(撹拌)なし。ステラージュ(澱引き)なし。柑橘系果実のアロマを伴う綺麗な果実味。しっかりとした酸。クリーミーですが全く重たくありません。ALC12,5% です。こちらも白の代名詞と言えるホワイトワインです。イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリアの白ワインにインスピレーションを受けて造り出したワインです。これこそが究極の白ワインであるという意味を込めてホワイトワインと命名しました。2つの畑の4つの葡萄をブレンドしています。2021年ホワイトワインは、46%セミヨン、29%リボッラ・ジャッラ、23%ソーヴィニヨン・ブラン、2%フリウラーノです。セミヨンはコク味とボディを、リボッラ・ジャッラはミネラル感を、ソーヴィニヨン・ブランは柑橘感と酸味を、フリウラーノはスパイシーなアロマを作り出しています。白ワインの醸造に新樽は使いませんが、このホワイトワインだけ新樽を使用しています。ALC12% です。非常に繊細な味わいのロゼワインです。ロゼワイン用に栽培している葡萄だけを使用しています。鮮明な果実味をキープしたいために、スパークリングワイン同様に収穫はヴェレゾン直後に行っています。2022年ロゼワインは、彼が監督または管理する畑からの、34%グルナッシュ、32%バルべーラ、16%クノワーズ、14%ムールヴェドル、4%その他赤葡萄です。全房プレス後、冷蔵タンクで24時間静置。発酵と熟成はシュール・リー状態でステンレスタンクで行います。酸を残すためマロラクティック発酵なし。ボトリング前に清澄。非常に繊細な味わいです。オールマイティに楽しめますが、和食とのマリアージュをおすすめします。ALC12% です。リボッラ・ジャッラはイタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリアと、隣接するスロベニアに共通する土着品種です。この葡萄の歴史は古く、1926年にローマ法王によって書かれた書物にその記述があるとか。ジョージ・ヴェア(ガイザー・ピーク・ワイナリーの創業者)がイタリア自然派ワインのパイオニアであるヨスコ・グラヴナーの畑から若木を持ち込んだのが始まりで、その畑を栽培管理していたスティーブ・マサイアソンが2006年に自身の畑マサイアソン・ヴィンヤードに植えました(樹齢15年のメルローの台木に接木)。僅か7畝の貴重な葡萄です。2008年からオレンジワイン・スタイルで生産を始めました。2021年リボッラ・ジャッラは、100%リボッラ・ジャッラで、全房で発酵し、2週間後にプレスし、そしてフレンチオーク旧樽で18ヶ月シュール・リー状態で熟成しました。白ワインですがパンチダウンして十分に醸しました。ステラージュなし。ボトリング直前に極々少量の CO2 添加。やや靄のかかった黄金色。なめし皮や土の風味。インパクトのあるふくよかな果実味です。ALC11% です。
スキオッペッティーノもリボッラ・ジャッラと同じく、イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリアと、隣接するスロベニアに共通する土着品種です。別名リボッラ・ネロ(銃声の意味)ですが、リボッラ・ジャッラの白ではなく、シラーとピノ・ノワールの遠い親戚葡萄とのことです。2010年にリボッラ・ジャッラと同じくメルローに接木しました。自社畑に僅か2畝だけの希少葡萄です。カリフォルニアで唯一スティーブ・マサイアソンが栽培しています。2020年スキオッペッティーノは、100%スキオッペッティーノで、除梗しプレス後ステンレスの小さな容器で発酵。手でパンチダウンとポンプオーバーを行いました。パンチョンにて熟成。木イチゴのアロマ。ハーブの風味が印象的。本家本元のワインはワイルドな味わいのようですが、マサイアソンのこのワインは繊細な果実味で、非常に軽やかな仕上がりです。ALC11% です。カベルネ・ソーヴィニヨンは ”古き良きナパのカベルネ” をイメージして作られたワインです。昔ながらのカベルネの味わいを生み出すために最新の栽培を行い表現します。6つの畑のブレンドですが、そのうち4つの畑は自社畑で、CCOF 認証の畑です。自社畑はデッド・フレッド(クームスヴィル)、ヘレンズ・ゲート、ヨーク、サーカ(以上ラザフォード)です。2020年カベルネ・ソーヴィニヨンは、95%カベルネ・ソーヴィニヨン、4%プティ・ヴェルド、1%カベルネ・フランです。小さな容器で低温発酵。1日2回のポンプオーバーを行い、辛口になるまで発酵し、マロラクティック発酵終了後にブレンド。その後フレンチオーク(新樽は20%以下)で20ヶ月の熟成。ほぼカベルネ・ソーヴィニヨンで、ナパらしいフルーツ味も感じますが、柔らかい優しいタンニンの中に綺麗な果実味を感じます。ALC13% です。スティーブ・マサイアソンは、自身のワイナリーのあるオーク・ノールの西側、マヤカマス山脈の麓のとある畑を栽培管理していたのですが、その畑のお隣にあったのがフェニックス・ヴィンヤードでした。1982年に入植された畑でしたが、その後荒廃し、スティーブさんが譲り受けることでオーガニック栽培で再生復活させました(現在マサイアソンの自社畑で、そこに新しいワイナリーを建設しました)。東向きの急斜面で、土壌は海洋性の貢岩が多く見られます。現在カベルネソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルローが入植されています。2020年フェニックス・ヴィンヤード・カベルネ・ソーヴィニヨンは、100%カベルネ・ソーヴィニヨンで、フレンチオーク(新樽と旧樽)、旧ドゥミ・ミュイ、大型のフードル樽で20ヶ月熟成。強いアロマではありませんが、いわゆるカシスやブラックベリーのアロマが先立ち、杉やドライハーブのアロマも印象的に立ち上がります。濃縮というより凝縮といった赤黒系の果実味は引き締まり、強いというよりしたたかといったタンニンに覆われます。力強いですが繊細さを持ちます。長期の熟成が楽しみなワインです。2020年の山火事の影響はありません(北東向きの風だったため)。ALC12% です。ナパのカベルネで ALC12% というのはなかなか存在しないですね。最後に魅惑のヴェルモットです。初リリースから12年経ちましたが、今回が6度目のリリースです。ベースとなるワインにハーブ、スパイス、フルーツエキストラクトを添加します。ベースとなるワインは Flora フローラという品種で、UC デイヴィスの伝説的存在のハロルド・オルモ博士によってセミヨンとゲヴュルツトラミネ―ルを交配させた品種です。この葡萄は元々晩熟で、貴腐菌が付着してレーズン化した粒を選果しました(45 Brix まで糖度を上げる)。そして全房で発酵。今回の No.6 ヴェルモットにおいてはさらにレーズン化したヴィオニエを全房で発酵したものを加えました。120g から 170g の残糖を目安に自然に発酵を止めます。プレスし旧樽に移し替えます。白ワインの熟成に使用したフレンチオーク旧樽とコニャックの熟成に使用した25年樽を使用。香り付けに自家製のブラッドオレンジ、サワーチェリー、有機栽培のコリアンダーなどを、ほろ苦み付けに自家製のカルダモン、ヨモギなどを蒸留し添加。ボトリングの直前に全ての要素をブレンド。無濾過で瓶詰めしました。アルコール度数は17度です。これはもうへたくそなコメントはいたしません。とにかく美味です(苦笑)。
ちなみに、テイスティングシートの4番がリボッラ・ジャッラ、5番がフェニックス・ヴィンヤード・カベルネ・ソーヴィニヨン、6番がヴェルモットです。
この度7年振りの来日となりました。通算3度目のご対面ですが、初回はお話するチャンスがなく、前回来日の2017年にサインを頂戴しました。前回は輸入元の試飲会での初のご対面と短い挨拶だけでしたが。セミナーは今回が初めての参加です。マサイアソンのワインの裏側(栽培)を知ることが出来ました。セミナー終了後にご挨拶へ。「スティーブさん、これ覚えてますか?」とお話すると「おお(笑顔で)!サインどこだっけ?」と。「ここです(袖口)」と指さすと「それ写真撮るから」とスマホでパチリ(苦笑)。笑顔が可愛いスティーブさんです。
#Matthiasson Wine
#Matthiasson Winery
#Napa Valley
【スティーブ・マサイアソン氏来日!(マサイアソン)】(2017年2月7日)