ワイン・インスティテュート・オブ・カリフォルニアが主催する国内最大の試飲会カリフォルニアワイン・グランド・テイスティングが開催されました。この試飲会に際して、マスターソムリエの Geoff Kruth ジェフ・クルス氏が来日されました。ジェフ・クルスがスピーチするセミナーに参加しました。
ワイン業界最高峰&最難関の資格であるコート・オブ・マスターソムリエ。1969年に制定され、現在世界で僅か239名(うちアメリカ人が147人)がその資格を有します。ジェフ・クリス氏もそのマスターソムリエの1人です。彼はニューヨークでレストランに勤務し、その後カリフォルニアへやって来ました。ソノマのフォレストヴィルのレストランでワインディレクターを務め、自らワインの生産も始めました。彼が造り出したワイン(Lost & Found)はニューヨーク、カリフォルニアのトップ・レストランがまるで競うかのように採用しました。また現在はワインに関わるプロフェッショナルの教育普及を目指すギルド・ソム NPO Guild Somm のプレジデントも務めています(ソムはソムリエを表します)。
そのジェフ・クルス氏がスピーチするセミナーに参加しました。セミナーのテーマは「テイスティングで辿るカリフォルニアワインの歴史」です。ジェフ・クルス氏と一緒に、ギルド・ソムの上級フタッフライターで「 Napa Valley Then & Now 」を書き上げた Kelli White ケリー・ホワイト女史も同行来日し、セミナーでスピーチしました。
テイスティングはこちらです・・・
★Buena Vista “The Sheriff” Red Wine Sonoma County 2015
★Bedrock Evangelho Vineyard Heritage Red Wine Contra Costa 2016
★Louis M. Martini Monte Rosso Vineyard Cabernet Sauvignon Sonoma Valley 2013
★Hanzell Vineyards Chardonnay Sonoma Valley 2014
★Grgich Hills Estate Chardonnay Napa Valley 2013
★Domaine de la Cote Pinot Noir Sta. Rita Hills 2014
★Pax “Sonoma Hillsides” Syrah Sonoma County 2016
★Massican “Annia” White Blend Wine Napa Valley 2016
今回はカリフォルニアの歴史を振り返りながらテイスティングするというもので、ワインは濃い強いワインから軽い繊細なワインへとなっています。(今回はワイン自体の評価はあまり関係ありません。下記内容は、ジェフ・クルスのコメントと私が補足した説明文と一緒になっています。)。1600年代にすでにカリフォルニアにはワインがあったそうです。それはスペイン人宣教師が持ち込んだものでした。19世紀初頭ハンガリーからアメリカへやって来たアゴストン・ハラジー。サンディエゴ北部で果樹園を始めた彼はサンディエゴ群で最初の保安官でもありました(ワイン名の由来)。北カリフォルニアで移ったアゴストン・ハラジーはソノマに500エーカーの土地を購入し、1857年ブエナ・ヴィスタ・ワイナリーを設立。ヨーロッパから400種に及ぶ苗木を輸入したアゴストン・ハラジーは後に”ワインの父”と呼ばれました。ザ・シェリフ・オブ・ブエナ・ヴィスタは、41%プティ・シラー、35%プティ・ヴェルド、13%シラー、8%カベルネ・ソーヴィニヨン、3%グルナッシュで、フレンチ及びハンガリアンオークで14ヶ月熟成。ハーブやスパイスの風味を持ちます。19世紀後半はナパ・ヴァレーにおける黎明期でもあります。ナパ・ヴァレー最初のワイナリーであるチャールズ・クルッグが1961年に創設されました。ドイツ移民が創設したベリンジャー(1876年)、フィンランド移民が創設したイングルヌック(1879年)と続きます。ワインメーカー・オブ・ザ・イヤーを獲得し、今最も注目を浴びるモーガン・ピーターソンが造るご存じベッドロック。ジンファンデル3大Rのレイヴェンズウッドの創業者ジョエル・ピーターソンの息子です。エヴァンジェロ・ヴィンヤードは1890年代に植樹された無灌漑の畑です。現在ポルトガル移民の父から譲り受けた2代目が所有。樹齢125年の葡萄樹が存在します。クロアチアから来たジンファンデル品種はこの当時盛んに入植されました。エヴァンジェロ・ヘリテージ・レッドは、60%ジンファンデル、35%マタロ(ムールヴェ―ドル)、その他カリニャン、アリカンテ・ブーシュ、パロミノなどを使用。混植された畑の葡萄を混醸します。初期のカリフォルニアにはこのような混植の畑が数多く見られました。当時ヨーロッパにも混植の畑はよくあり、カリフォルニアへ来た移民達が混植の畑を造りました。ジンファンデル主体とは思えないフィネスとエレガントさを持ちます。ゴールド・ラッシュを経てワイン産業が一気に発展したカリフォルニア州でしたが、1920年から1933年までは禁酒法の暗黒時代。ほとんどのワイナリーが閉鎖され、教会のミサや医療に使用される目的でワイン醸造が許されたワイナリーがいくつか存続しただけです。家族で年間200ガロンの葡萄ジュースを作ることは許されていました。そのためこの時期はプティ・シラーやジンファンデルの畑が増えました。禁酒法後に設立されたルイ・マティーニ(現在ガロの傘下)。20世紀初頭にイタリアから来た移民で、バルクワインを造っていましたが、禁酒法後にファインワインを造り出しました。モンテ・ロッソ・ヴィンヤードも20世紀初頭にソノマ・ヴァレーに植樹された畑です。入植当時はジンファンデルを含む26品種が入植されていたようです。この畑は1938年からルイ・マティーニ・ワイナリーが所有します。モンテ・ロッソ・カベルネ・ソーヴィニヨンは、100%カベルネ・ソーヴィニヨンで、72%フレンチオーク新樽、16%アメリカンオーク新樽、12%旧樽にて26ヶ月熟成。ドライハーブ、スパイスの風味を伴うブラックフルーツの味わい。ブルゴーニュ品種(シャルドネ、ピノ・ノワール)のバイブル・ワイナリーと言われるハンゼル・ヴィンヤードです。第2次世界大戦後在イタリア米国大使としてヨーロッパ経済復興計画(マーシャルプラン)に携わったジェームス・ゼラーバッハによって1953年に設立されました。ブルゴーニュのトップ・ドメーヌに匹敵するカリフォルニアワイン造りを目的としました。当時植樹されたシャルドネは北アメリカ最古の樹として知られています。ちなみに1950年代にはシャルドネの畑は僅か200エーカーほどでした。カリフォルニアにおけるシャルドネの歴史は比較的新しいのです。またワイナリーの建物はクロ・ド・ヴージョを模して建てられました。温度をコントロールできるステンレスタンクを初めて導入。MLF(マロラクティック発酵)の仕組みを発見しました。ムルソーがモデルとなったソノマ・ヴァレー・シャルドネのクローンは Hanzell、Old Wente、Robert Young、Hyde、76、95 など。75%はステンレスタンクで発酵(MLFなし)、25%はオーク樽発酵でバトナージュを実践(最初の2ヶ月)。228リットルのフレンチオークで約1年熟成。華やかで繊細な果実味を持ちます。新しい時代の到来です。最新設備を整えたブティックワイナリーが誕生し、高品質のワインが造り出されるようになりました。その火付け役となったのはやはりロバート・モンダビ・ワイナリー(1966年)の創業者で、”カリフォルニアワインの父”と呼ばれるロバート・モンダビでしょうか。彼の業績はカリフォルニアワインの発展そのものです。そしてカリフォルニアワインを世界に知らしめたご存じ1976年の「パリスの審判」。当時無名のカリフォルニアワインがフランスワインを打ち破りました。赤部門での優勝はスタッグス・リープ・ワイン・セラーズのカベルネ・ソーヴィニヨン。白部門での優勝はシャトー・モンテレーナのシャルドネ。そのシャトー・モンテレーナのシャルドネを造ったのがクロアチア出身のマイク・ガーギッチです。1977年ガーギッチ・ヒルズ・セラーを設立。2006年からバイオダイナミックを実践。2007年ガーギッチ・ヒルズ・エステートと改名しました。ナパ・ヴァレー・シャルドネはアメリカン・キャニオンとカーネロスの畑から。オーク樽にて発酵、フレンチオーク(40%新樽)にて10ヶ月熟成。バニラやオークの風味が伴う、いわゆるトラディショナル?なシャルドネです。1980年代後半からはカルトワインの時代に突入。カリフォルニアではビッグなワインを造ることが可能なのでビッグなワインを造り出しました。ちょうどワイン消費者が増え、リッチなスタイルが増えました。ハーラン・エステート、スクリーミング・イーグル、ブライアント・ファミリー、コルギン、ダラ・ヴァレ、アロウホなどがカリフォルニア・カルトワインの代名詞のような存在となりました。そしてこの10年はまた新たな動き、流れが起きています。”カリフォルニアの新潮流”と言われる生産者が出現しました。酸がきれい、濃すぎない、アルコール度数が高くない、バランスがとれている、そういうワインを造るカリフォルニアの生産者グループ IPOB (In Pursuit of Balance) が誕生しました。その IPOB の発起人の1人がラジャ・パーで、全米で有名なマイケル・ミーナ・グループのワイン・ディレクターを務めた方です。そのラジャ・パーとワインメーカーのサシ・ムーアマン(日系2世)が立ち上げたのがドメーヌ・ド・ラ・コート。サンタ・リタ・ヒルズの一番海に近い西端に位置する畑から、冷涼な気候と海の底であった土壌が隆起堆積した土壌の特徴を表したワインを造り出しています。カリフォルニアの歴史的なクローンを使用。出来上がったワインはまさにブルゴーニュのスタイルに近いワインです(ブルゴーニュ好きが造ったまさにブルゴーニュに近いワイン)。サンタ・リタ・ヒルズ・ピノ・ノワールはいわゆるカリフォルニアのピノ・ノワールによくみられる重さがない、むしろ軽やかさのあるエレガントな味わいです。ブラインドで飲むとブルゴーニュと間違えるほど(でも誰にでもすすめられるワインではない)。ディーン&デルーカの元ワイン・コンサルタントのパックス・マーリが2000年に立ち上げたのがパックス・セラーズ。当時は濃厚なシラーを造り上げていたので、コパンなどと共に次世代のシラー専門生産の筆頭ワイナリーとして高い評価を受けました(その後フランスのシラーに魅了され、造るスタイルが変わりましたが)。ソノマ・ヒルサイズ・シラーはこちらもいわゆるカリフォルニアのシラーによくみられる甘くて濃厚なシラーとは一線を画します。フランスのシラーを意識したスタイルです。100%シラーで、全房発酵(一部は足による破砕、一部は炭酸ガス浸漬)。熟成はフレンチオーク旧樽で5ヶ月、コンクリートタンクで4ヶ月。ローヌ・スタイル。味わいは重くなく、スパイスやハーブの風味を伴うスパイシーな果実味です。全房はスパイスのキャラクターが茎から出ます。またアルコール度数を減らします。茎がアルコールを吸収するからです。このラベルはサン・ジョセフのレイモン・トロラへのオマージュとのこと。パックス・マーリはその後パックスを去り、2006年ウィンド・ギャップ・ワインズを設立しました。最後のマッシカンは”カリフォルニアの新潮流”を最も象徴する白ワインです。ラークミードなどで修行したイタリア移民のドン・ペドロスキーが2010年に設立。現在のナパ・ヴァレーで赤ワインでなく軽やかな白ワインを造るというのがもう新潮流?です。そして新潮流の生産者が使う葡萄はカベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シャルドネなどのいわゆるメジャー品種と言われる葡萄ではなくマイナー品種と言われる葡萄です。古き時代に移民が植えたマイナー品種は僅かではありますがまだカリフォルニアに現存しています。アニア・ホワイト・ワインは、60%リボッラ・ジャッラ、31%トカイ・フリウラーノ、9%シャルドネで、フレンチオークの小樽(15%新樽)で発酵と短期間の熟成です。アルコール度数は12%台です。香り高く繊細な味わいです。ところが今までのカリフォルニアワインになかった風味を持ちます。最後に残るかすかな苦みです。元来アメリカ人は甘味が好きです。イタリア人は伝統的なパレットとして苦みが好きです。エスプレッソ、トマト、カンパリなど。しかしアメリカ人も苦みのあるものを口にするようになってきました(苦笑)。
「ナパをボルドー、ソノマをブルゴーニュ、パソ・ロブレスをローヌ、シエラ・フットヒルズをラングドックに例えられることがある。地域にあった葡萄があるし、生産者の思いもある。若い世代の生産者は過去にとらわれず、何が可能かを考える。カリフォルニアはエキサイティングなワイン産地で、ステレオタイプではなくなっている。(ジェフ・クルス)」
カリフォルニアワインの誕生は約160年前の出来事ですが、時代の流れと共にカリフォルニアワインも変化してきました。そして今カリフォルニアワインは多様化の時代に突入しています。
【2度目の日本入荷です・・・売り切れ御免です・・・ロスト・アンド・ファウンド】(3月11日公開)
ジェフ・クルス氏と ケリー・ホワイト女史 |
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さて、試飲会場では100以上のワイナリーがワインを出品しています。ワイナリーのオーナーやセールス・マネージャーも来日しています。気になるワインをテイスティングしながら会場を巡ると・・・
(8日夜カリフォルニアで山火事が発生。ナパとソノマの広範囲に渡る山火事で過去最悪の山火事となりました。)
ナパ・ヴァレーにおけるメルロー造りのパイオニア「ダックホーン・ヴィンヤーズ」の副社長ピート・プリジビリンスキーさんがいました。もう何回目のご対面だか分かりません(大笑)。「ピートさんご無沙汰です。」「会えて嬉しいよ。」「ワイナリーは大丈夫ですか?」「大丈夫です。」「パラダックスも大丈夫ですか。」「大丈夫だよ。」ちょっと安心しました。そして「今年はジャイアンツはダメでしたね。」「東京のジャイアンツは?」「東京もダメでした。」みたいな会話になりました(笑)。そして、ロー・プライスながらハイ・クオリティのワインを造り出している「フープス・ヴィンヤード」のオーナーのリンゼイ・フープスさんがいました。3度目のご対面になります。リンゼイさんは大のジャイアンツ・ファンです。初めて会った時から意気投合しました(喜)。リンゼイさんとも今年のジャイアンツについてお話したかったのですが、ナパとソノマの山火事でフープス・ヴィンヤードは畑に被害を受けました。「リンゼイさん、大丈夫でしたか?」「私も家族も大丈夫です。」「ワイナリーや畑は大丈夫ですか?」「畑に被害がありました。」「そうですか。残念です。」「でもお会いできて嬉しいです。」「私もです。」「せっかくですから、例の写真撮りましょう。」「イエス!」ナパを離れるギリギリまで来日をキャンセルしようか迷ったそうです。リンゼイさんは悲しみの中での来日となりました。それでもリンゼイさんは例の記念写真では笑顔を見せてくれました(涙)。
ブログ【大好きなワインです!ドン・ラボード氏来日!(パラダックス)】(5月25日)
週末の有料試飲【フープラ ザ・マット レッド ナパ・ヴァレー 2014】(2016年12月9日、10日)
ピートさんと・・・ | |
リンゼイさんと・・・ | |
まだ火事は続いております。特に被害が大きいのはナパ・ヴァレーのアトラス・ピークとソノマのサンタ・ローザ。アトラス・ピークでの山火事はシルバラード・トレイル沿いのワイナリーにも被害が及び、当店でもご紹介のシニョネロ・ワイナリーが焼失しました。サンタ・ローザではハイウェイ101号線をまたいで被害が広がり、薩摩出身でグレープ・キングと呼ばれた長澤鼎の偉業を継承するパラダイス・リッジが焼失しました。グレン・エレン、カーネロス、カリストガ、マウント・ヴィーダーでも火事が発生し、さらにマリンやメンドシーノなど複数のカウンティに被害が広がっています。
とにかくナパやソノマのみなさんの安全と一日も早い鎮火を願うばかりです。。。
Please stay safe everyone in Napa and Sonoma!
Napa Valley Vintners (日本語サイト)プレスリリース「ナパ森林火災」